【感想】他人を見下す若者たち /速水 敏彦

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「現代人は自分の体面を保つために、周囲の見知らぬ他社の能力や実力を、いとも簡単に否定する。世間の連中はつまらない奴らだ、とるに足らぬやつらだという感覚をいつのまにか自分の身にしみこませているように思われる。そのような他者軽視をすることで、彼らは自分への肯定感を獲得することが可能になる。一時的にせよ、自分に対する誇りを味わうことができる。このように若者を中心として、現代人の多くが他者を見下したり軽視することで、無意識的に自分の価値や能力に対する評価を保持したり。高めようとしているように思われる。」

 

筆者は、現代人が他者を見下すことで、自己への肯定感を獲得しようとする心理を「仮想的有能感」と定義して、現代人、特に若者の間で、この仮想的有能感を持つ人間が増えていることを指摘している。

 

確かに、この仮想的有能感は、自己においても、自分の周囲にいる人間においても、馴染みのある心理である事は事実である。

正直、普段買わないような新書に手を出したのも、この仮想的有能感が身近に感じ、興味を持ったからに他ならない。

 

最初は興味を持って本を開いていたが、読み進めていくうちに、一種の苛立ちを感じるようになった。

それは、筆者が、現代人の課題を「若者」に押し付けているような印象を受けたからだ。

この「仮想的有能感」という心理を現代人の多くが持つようになった経緯やその弊害については、至極まっとうな解析を筆者はしていると思う。

ただ、現代人の中でも、「特に若者に仮想的有能感を持つ者が多い」と結論付けているところがしっくりこない。個人的な感想であるが、その根拠となるデータもお粗末なアンケートの集計データのように見える。

この本の最後のほうに、申し訳程度に「(仮想的有能感が若者に多く中高年に少なく見えるのは)どの世代でも繰り返される発達的、歴年齢的な差異なのか、いわゆる文化差に基づく世代差なのかは、現在のところ不明であるが・・・」

とあるが、この問題に取り組もうとしない限り、中高年から見た若者への不満にしか感じない。

 

現代の若者を批判する批評家は多いが、そのほとんどが中高年のコメンテータの意見であるのだから、すでに中立的な立場からの意見ではない。

 

年金問題・雇用問題など、様々な面で打ちひしがれている若者に対して、追い打ちをかけるような中高年の批評家。若い人たちの頑張りにも、もう少し目を向けてほしい。

 

 

他人を見下す若者たち (講談社現代新書)

他人を見下す若者たち (講談社現代新書)