【感想】 こころ/夏目漱石

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Kの自殺について
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Kは何故、自殺したのだろう?

「こころ」の中では、Kの自殺の動機は明確に述べられていない。
高校の頃、読んだときは、親友からの裏切りと失恋に苦しみ、「わたし」を怨みながら自ら命を絶ったものだと思っていましたが、何年かぶりにこの小説を読んでみると、夏目漱石が描いた人間のこころは、そんなに単純ではなかったのではないかと思うのです。

というのは、Kみたいに修行僧のような性格を持つ人間は、もっと自罰的で、他人を怨んだり親友の裏切りに悲観するよりも自らの至らなさに目を向けるのではないかと思ったからです。

「わたし」に対してKが、お嬢さんの事を好きだと打ち明けた時、Kは「わたし」がお嬢さんを好きだという事を少なからず知っていたのではないでしょうか?「わたし」がしようとしていた、相手に先に進ませない事をK自身が試みたのかもしれません。知らなかったとしても、「わたし」とお嬢さんの婚約を知ったときに、自分の行動が「わたし」を傷つけていたことに気付き後悔したのかもしれません。いずれにしても、Kは自分の行動と自分の弱さに苦しみ死を選んだように思います。

Kの遺書にも、「わたし」を怨むような言葉は書かれていません。最後まで親友を気遣ったという風にも取れますが、僕は寧ろ、自殺を思い立ったKの精神世界には「わたし」の裏切りなどは、まったく入る余地もなく、遺書にもKの思いそのままが書かれていたのではないかと思っています。

そうであるとすれば、自身の裏切り行為で友の命を奪ってしまったと一生苦しみ続ける「わたし」(先生)は、もっと悲惨に映ります。

高校の国語の先生が、Kの「こころ」に立ってこの小説を読むと、また一段と楽しめると話していた事を思い出します。素晴らしい小説は、何度も読み返したくなりますね。

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この小説の主題について
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この小説の主題は、下記の言葉に集約されていると思っています。

「鋳型に入れたような悪人は世の中にいるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです。だから油断できないんです。」

先生が放ったこの言葉には、自分自身が最も軽蔑している叔父と、その叔父と同等の人間に陥ってしまった自分への軽蔑が込められています。
得てして、人間は嫉妬心や目先の欲に対して理性を保つことが困難になることがあります。それは、先生や叔父に限ったことでなく、どんな人間にも潜在的に備わっている恐ろしい部分でもあります。
この小説の凄いところは、歯止めの利かなかった嫉妬心に苦しむ若き日の先生の物語に対して、客観的に見る事のできる現在の先生が反省を込めた注釈を入れながら語られているところだと僕は思います。この、客観的な注釈が、若き日の先生が、どうしても嫉妬心から抜け出すことのできなかった様をより切実にしているように思います。

ともあれ、自分の中に眠る悪人。つまり嫉妬心の克服は、大変に難しいことです。ただ、人間に備わるこの嫉妬心は、生きる上で必要だからこそあるとすれば、克服という言葉ではなく「うまく付き合う」というのが正しい見解なのかもしれません。
まだまだ、勉強が必要です

 

 

こころ (新潮文庫)

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