【感想】壁 /安部公房

壁 (新潮文庫)

シュールリアリスムの作品。
読み始めたときは、物語の中の物理法則や秩序が、めちゃくちゃな世界の話というだけで、物語を読み終われば、この作品を通して筆者が伝えたいことが分かるのだと思い込んでいた。
主人公が名刺から名前を盗まれ、身の回りのモノが人間に対する暴動を起こしている事が明らかになったとき、この物語の趣旨は、モノを大切にしない人間への警告なのだと、思った。しかし、この作品は、そんなところに話を落ち着けてくれるものではなかったのだ。
物語前半で立ち上げられた伏線は、開けっ放しになったまま、物語は終わってしまう。
名前が盗まれた意味、モノが氾濫を起こし、主人公が世界の果てに追放されようとしている意味、登場人物たちの役割、全ての謎が謎のまま物語は終わってしまう。
シュールリアリスムというジャンルとは、こういうものなのだろうか。とても不思議な気持ちにさせてくれる。
むしろ、僕の感じた、この「不思議な気持ち」にさせる事が筆者の意図なのかもしれない。難しい。

 

壁 (新潮文庫)

壁 (新潮文庫)