【感想】 羅生門・鼻・侏儒の言葉 /芥川龍之介

 

 

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羅生門・鼻・杜子春・トロッコ・侏儒の言葉の5編が収録.

芥川龍之介は,人間の心理の移り変わりを表現するのがうまい作家だと言われています.

誰もが国語の教科書で目にする「羅生門」は,職を追われた下人の心理が死人の髪の毛を抜く老婆とのやり取りの中で変転していくという物語です.
老婆の悪事を戒めようとした正義心は,物語の最後には,生きるために必要な悪事を正当化する心理へと変わってしまいます.

2編目の「鼻」でも,コンプレックスを克服した内供に対する周囲の人々の心理の変化について下記のようなことが述べています.

「人間の心には互いに矛盾した二つの感情がある.もちろん,たれでも他人の不幸に同情しない者はいない.ところがその人がその不幸を,どうにかして切り抜けることができると,今度はこっちでなんとなく物足りないような心もちがする.少し誇張して言えば,もう一度その人を,同じ不幸に陥れてみたいような気にさえなる.そうしていつのまにか,消極的ではあるが,ある敵意をいだくようなことになる.」

この言葉を,芥川龍之介は,傍観者の利己主義と呼んでいます.

悲しくはありますが,「羅生門」の下人の心理も「鼻」の傍観者の心理も,誰もが持っている心の側面なんだと思います.

そんな心理が出てきてしまったときには,ただただその心理を理性で押し殺して,せめて行動だけは立派に見せかけたいものです.

 

 

羅生門・鼻 (新潮文庫)

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