読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

【感想】三国志(1)~(5) /吉川英治

新装版 三国志(一) (講談社文庫)新装版 三国志(二) (講談社文庫)新装版 三国志(三) (講談社文庫)

新装版 三国志(四) (講談社文庫)新装版 三国志(五) (講談社文庫)

 

吉川英治の名著「三国志」。この物語に登場する多くの武将達の性格や行動は、僕たちに多くの学びを与えてくれる。ここでは、小説の主人公である劉備玄徳に焦点を当ててみたいと思う。

 

劉備玄徳は、道徳を重んじ、弱きを助ける「心優しき人」である。
物語の序盤では、絶対なる親への孝行心を持ち合わていることが印象的であり、
物語の後半、蜀の帝になってからも、自らが犠牲になっても国民を助けようとする姿は、民衆を守るリーダーとして理想的だと言える。
ただ、謙虚すぎるきらいがあり、周囲から蜀の帝として立ち上がって欲しいとの要望にも断乎として断り続けた姿は、周囲の武将や孔明を困らせていた。
このような優れた人格・志には、優れた人間を引き寄せる求心力がある。それが、関羽張飛趙雲という武将達であり、孔明という軍師なのだろう。

しかし、この小説では、このように首尾一貫して優れた人格を保ち続けてきた人間にさえも潜む「人間的な弱さ」が表現されている。
それは、劉備の軍が呉の陸遜と対峙していた際、劉備が決した作戦に対して、馬良が諌めた場面で伺うことが出来る。
以下、本文を引用する。

馬良)「いちどにこれだけの軍を退いては大変です。かならず陸遜の追撃を喰らいましょう」
劉備)「案じるなかれ、弱々しい老兵を殿軍にのこし、いつわり負けて逃ぐるをば、敵がもし図に乗って追ってきたら、朕みずから精鋭を伏せて、これを討つ。敵に計ありと覚れば、うかと長追いはして来ないだろう」
 諸将は、それこそ帝の神機妙算なりとたたえた。けれど、こう説明を聞いてもまだ馬良は不安そうに、
「このころ、諸葛孔明はお留守のいとまに、折々、漢中まで出てきて、諸所の要害を、いよいよ大事と固めている由です。漢中といえば遠くもありませんから、大急ぎでこの辺りの地形夫人を図に写して使いに持たせ、軍師の意見をご下問になられてみた上、然るべしとあらば、そのあとで陣をお移し遊ばしても遅くはないかと思われますが」
 と、なお止めたい顔をしていた。玄徳は微笑して、
「朕も兵法を知らない者ではない。遠征の途に臨んで、何でいちいち孔明に問い合わせを出しておられよう。・(中略)」 (新装版三国志 5巻 p.206 [白帝城])

この後、劉備は、陸遜の作戦にまんまと掛り、大敗を決することになる。
帝に祭り上げられた劉備は、驕り・慢心を起こし、部下の忠告に耳を貸さなくなってしまったのだ。
実は三国志に登場する武将が戦に負けるとき、その前兆となる行動が、
この「武将が慢心を起こし、部下の忠告を無視する」というものなのだ。
知慮に欠けている武将達の行動ならまだ分かるが、それを優れた人格を持ち合わせた劉備玄徳がしてしまうのが人間の妙なのだろう。
どれだけ人格が優れている人間であれ、権力や名誉というものに心を動かされ驕りや慢心を起こしてしまう事がある。そして、敵から付け込まれるのは、そういった人間の愚かさである事を僕らは肝に銘じておく必要があるのだろう。

 

 

新装版 三国志(一) (講談社文庫)

新装版 三国志(一) (講談社文庫)

 

 

新装版 三国志(二) (講談社文庫)

新装版 三国志(二) (講談社文庫)

 

 

新装版 三国志(三) (講談社文庫)

新装版 三国志(三) (講談社文庫)

 

 

新装版 三国志(四) (講談社文庫)

新装版 三国志(四) (講談社文庫)

 

 

新装版 三国志(五) (講談社文庫)

新装版 三国志(五) (講談社文庫)