【感想】罪と罰(上)(下) / ドストエフスキー

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「選ばれた非凡人は、新たな世の中の成長のためなら、社会道徳を踏み外す権利を持つ」 
これは、この物語の主人公ラスコリーニコフが持つ独自の犯罪理論の一部である。 
ある日、彼は、その犯罪理論に基づいて、金貸しの老婆とその妹を殺してしまう。 

想定外の出来事が重なり計画通りに殺人は遂行できなかったものの、彼は、大きな証拠も残さずに現場から逃げ去ることができた。 
しかし、殺人を犯してしまった恐怖と、周囲の者に対する疑心暗鬼に取りつかれ、彼の精神は、次第に混乱してゆく。 

混乱した精神から発する彼の異常な行動は、自ら殺人現場へ足を運んだり、自分を疑っている予審判事の前に度々訪れるというものだった。 
予審判事は、混乱する彼から心理的証拠を次々と引き出す。彼はだんだんと追い詰められてゆく。 

この物語の大きな特徴は、主人公ラスコリーニコフの思想や性格である。 
己を有能視し、他人を見下すような彼の性格には、読者として閉口してしまう。 
彼は、刑務所に自首する直前でさえ、殺人に対する悔恨ではなく、自身が「選ばれた非凡人でなかった事」を嘆いているのだ。 
また、このような性格と持ったラスコリーニコフさえも支えようと努力する女性の存在(主人公の妹ドゥーニャと、ヒロインであるソーネチカ)からは、女性の善良さと賢さ、辛抱強さを見出すことができる。 

もうひとつ、この物語を貫くテーマは「貧困」である。 
予審判事のポルフィーリィは、ラスコリーニコフに独自の殺人理論を持たせたのは、貧困と孤独だと言っている。また、この物語に登

 

 

場する人物の多くは、貧困に喘ぎ苦しんでいる。彼らの物語では、貧困が人を変え、腐らせてゆく様が描かれる。 
言われてみれば、犯罪の多くは、貧困が原因になっていると聞いたことがある。経済的に不満を持たず、貧困に打ちひしがれた事のない人間にとって、ラスコリーニコフの犯罪理論などは、到底理解できないものではある。しかし、環境が変わり貧困を経験することになれば、彼の理論の一端を理解することがあるのかもしれない。 


最後に、個人的にとても興味深く思えた登場人物ミコライの行動について触れたい。 
ミコライは、ラスコリーニコフが犯した老婆の殺人事件に対して、やってもいないのに、自ら犯人だと供述するのである。しかし、実際、彼が犯した罪は、ラスコリーニコフが落とした金品を拾ってくすねただけなのだ。 
ポルフィーリィは、ミコライの行動に対して、人間は、罪に対してそれに見合った「罰」を受けることによって安心する動物であると説明している。確かに、人間の本源的な部分には、自らの過ちに対して「罰」を受けたい気持ちというものが存在するのかもしれない。 

 

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

 

 

 

罪と罰〈下〉 (新潮文庫)

罪と罰〈下〉 (新潮文庫)