【感想】野火 /大岡昇平
太平洋戦争末期、フィリピン戦線で部隊が壊滅してしまい路頭に迷った一等兵の話。
戦場の悲惨な情景とともに、死と隣り合わせになった人間の心理描写が鮮明に描かれています。
特に心理描写に関しては、主人公の心境やそのときの自己分析などがリアルで、実際に戦争を経験した人間だからこそ表現できるものなのだと思いました。
戦場の酷さ、中でもこの小説では兵士達の飢餓にスポットが当てられています。
極限状態にある主人公が行き着いた先は、戦友の肉を食べるかどうかの葛藤でした。
目を伏せたくなるような表現も多々含まれており、苦手な人は読まないほうがいいと思います。
以下は、戦争が終わり主人公が病院で新聞を読んでいたときの言葉です。
「朝夕配られて来る新聞の報道は、私の最も欲しないこと、つまり戦争をさせようとしているらしい。現代の戦争を操る少数の紳士諸君は、それが利益なのだから別として、再び彼らに欺されたいらしい人達を私は理解できない。おそらく彼らは私が比島の山中で遇ったような目に遇うほかはあるまい。その時彼らは思い知るであろう。戦争を知らない人間は、半分は子供である。」
作者の伝えたかったことは、結局これなのだと思います。
本当の戦争の残酷さは、経験したものしか分からない。
しかし、戦争を知らない次の世代に、少しでも戦争の残酷さを伝えようとして、この作者は筆を執ったのではないでしょうか。
もう数十年すると、戦争を知る世代の人達がいなくなってしまいます。戦争の恐ろしさを次世代、次世代へと伝えていけるのか・・・戦争を知る人は心配なんだそうです。