宗教と科学。それは相反する2つの概念である。 古くから人間は、人知を超える自然現象は、神が起こしたものと考えるようにしてきた。雷の神、津波の神、雨の神。自然現象を神と崇め、人間に危害を加えることがあれば、祈りを捧げることさえしてきた。それが…
戦争の犠牲になるのは、いつの時代も名もなき民衆である。戦争による犠牲は、その戦争が終わってからも長い年月にわたって爪痕を残す。その中の1つに、残留孤児の問題がある。 この物語は、第二次世界大戦の折、日本人の残留孤児として中国に残された主人公…
己の人生に死を約束された人間は、何を考えるのだろう? しかも、それが己の過ちではなく、志を果たすべくでもなく、ただただ運命として与えられたものであるならば、苦悶に満ちたものになるだろう。 この本は、戦時中に徴兵され、戦没していった学生たちの…
何か大きな仕事を成し遂げようと思えば、様々なものが必要になる。 中でも大事なものは、”人望”だと言われている。”人望”を得るためにはどうすればいいのか?どういう人格を身に付ければ人望を得られるのか?その一つの答えがこの物語に描かれているのではな…
「とにかく俺の方があの男よりは賢明である、なぜといえば、私たちは二人とも、善についても美についても何も知っていまいと思われるが、しかし、彼は何も知らないのに、何かを知っていると信じており、これに反して私は、何も知りもしないが、知っていると…
「筆者はこの小説を構想するにあたって、事をなす人間の条件というものを考えたかった。 それを坂本龍馬という、田舎生まれの、地位もなく、学問もなく、ただ一片の志のみをもっていた若者にもとめた。(8巻「近江路」P.366)」 坂本竜馬という人物は、多く…
吉川英治の名著「三国志」。この物語に登場する多くの武将達の性格や行動は、僕たちに多くの学びを与えてくれる。ここでは、小説の主人公である劉備玄徳に焦点を当ててみたいと思う。 劉備玄徳は、道徳を重んじ、弱きを助ける「心優しき人」である。物語の序…
人間の性質のうちで最も醜く、そして最も人間らしいものは、「嫉妬心」だと思う。 己を省みても、やむにやまれぬ嫉妬心に苛まれ、自己嫌悪に苦しむ事が多々ある。人間の本能である限り、たくましく生きるために必要なものであることは承知している。ただただ…
「自己主張」と「協調性」。相反するこれらの性質は、人間関係においてどちらも大事である。どちらに行き過ぎることなく、中庸であることが理想だと僕は思う。 「自己主張」に行き過ぎた姿。それは、狭量な世界で生きる人だ。物事の考え方への多様性を認めら…
レ・ミゼラブルは、日本語で「みじめな人々」。そのタイトル通り、主人公ジャンヴァルジャンをはじめとした、当時のフランス社会の底辺で苦しみ続けた人間達の物語が綴られている。 ミュージカルや映画としても有名な作品だが、僕は小説として読むことをお勧…
敗者になることを恐れて、競争に参加さえしない人間がいる。競争の舞台に立たないのだから自尊心が傷つけられることもなく、安楽に甘んじる事ができる。何かを為そうと思わないのであれば、それでもいい。しかし、何かを為そうと思っているにも関わらず、競…
広島原爆を題材にした小説。 主人公の壮年が原爆が投下された8月6日から終戦の8月15日までの日記を紹介する形で物語が進みます。 小説の形をとっていますが、多くの人の被爆体験記の寄せ集めのような作品です。 原爆投下直後の悲惨な状況だけでなく、戦時中…
太平洋戦争末期、フィリピン戦線で部隊が壊滅してしまい路頭に迷った一等兵の話。 戦場の悲惨な情景とともに、死と隣り合わせになった人間の心理描写が鮮明に描かれています。 特に心理描写に関しては、主人公の心境やそのときの自己分析などがリアルで、実…
「中庸な人物を、時あって運命が掘り起こし、有無を言わさぬその鉄拳によって、彼ら本来の凡庸さを強引に抜け出させることができるということに対して、マリーアントワネットの生涯は、おそらく史上最も顕著な実例である。」 この本のはしがきに書かれている…
人間の虚栄心は、生きるためにある。道徳は、それを揶揄するが、人間の大切な防衛本能を無理に悪者扱いしてはいけない。阿Q正伝の精神的勝利法を馬鹿にする人もいるが、それが生きるための術だとしたら、馬鹿にする人たちは、人類を否定する愚か者だろうか?…
大江健三郎の短編集。『死者の奢り』、『他人の足』、『飼育』、『人間の羊』、『不意の唖』、『戦いの今日』の6編が収録されている。 中でも印象深かった、『他人の足』について感想を述べる。 『他人の足』は、脊椎カリエスの未成年病棟に収容された少年た…
戦時中、在日朝鮮人として日本に生まれた作者の自叙伝。 差別と貧乏の苦しい生活の中で青春時代を過ごした作者が「生きることの意味」を模索していく話。 この本は、大人になった作者が青春時代の辛い出来事を思い出しながら、そのときの出来事が自分に与え…
羅生門・鼻・杜子春・トロッコ・侏儒の言葉の5編が収録. 芥川龍之介は,人間の心理の移り変わりを表現するのがうまい作家だと言われています. 誰もが国語の教科書で目にする「羅生門」は,職を追われた下人の心理が死人の髪の毛を抜く老婆とのやり取りの中…
日本独特の文化である年功序列や終身雇用。近年の日本はグローバル化に合わせて、これらの文化にメスを入れ、実力主義、成果主義への変革を試みていることは近頃のニュースを見れば誰でも知っている事だ。僕も、これは「近年」の事だと思っていた。 この本を…
自分たちの地球が宇宙の中心だという考えにかじりついていた間、人類には宇宙の本当のことがわからなかったと同様に自分ばかりを中心にして物事を判断してゆくと、世の中の本当のことも、ついに知ることが出来ないでしまう。 大きな真理はそういう人の眼には…
シュールリアリスムの作品。読み始めたときは、物語の中の物理法則や秩序が、めちゃくちゃな世界の話というだけで、物語を読み終われば、この作品を通して筆者が伝えたいことが分かるのだと思い込んでいた。主人公が名刺から名前を盗まれ、身の回りのモノが…
内村鑑三の講義録。 それぞれ、「後世への最大遺物」「デンマルク国の話」というテーマで講話したときの内容が収録されています。 内村鑑三が尊重する考え方・哲学にはとても啓発を受けます。「代表的日本人」と共に、何度も読みたい本のひとつです。 【後世…
この本は,明治時代初期に,内村鑑三が海外の人々に日本人のすばらしさを伝えるために書いた本です. もともと英語で出版された本ですが,時代を経て日本語訳されたものなんですって. 同じ経緯で,新渡戸稲造も海外の人に向けて「武士道」を書いていますが…
「かつてメックレンブルクの一商店の小僧はいまは発掘から帰ると、アテネでもっとも立派な邸宅に住んでいた。少年時代には貧しくて身体は弱く、その限界は故郷にごく近いところにかぎられ、その心は余儀なく日々のパンに向けられていた彼が、いまは自ら手に…
教師の家で飼われている猫が、主人とそれを取り巻く人間と生活を共にし描いた、人間観察日記のような小説。 夏目漱石は、明治時代の日本文化を批評することを目的にこの小説を書いたそうです。 なるほど、人間文化を批評するにあたり人間生活を傍観する第三…
「日本はいま郡雄割拠の時代ではあるがこの時世がこのまま永続するものとは思われない。誰かが日本を統一しなければ民(たみ)百姓は安心して生業につくことはできない。強い者が弱い者を征服し、その強いものをさらに強い者が征服するのだ。弱い者は亡び、…
野心家である事は、悪い事なのだろうか?世の中では、野心的である事は、道徳に違背しているようで、人間の悪い性質の一つであるかのように扱われる。しかし、野心的であることは、言葉を変えると「向上心」とも同義のようにも思える。平等主義の世界から頭…
「愚弱な国民は、たとえ体格がよく、どんなに頑強であっても、せいぜいくだらぬ見せしめの材料と、その見物人になるだけだ。病気したり死んだりする人間がたとい多かろうと、そんなことは不幸とまではいえぬのだ。むしろわれわれの最初に果たすべき任務は、…
江戸時代初期に伊達藩に起こった御家騒動、通称・伊達騒動を舞台にした山本周五郎の小説。 主人公は、伊達藩の家臣のひとり、原田甲斐という人物。 原田甲斐という人物は、歴史上では極悪人とされています。しかし、山本周五郎の小説では、周囲から悪人と思…
ただ一つの希望、ただ一つの方法、それは身の素性を隠すより外にない、「たとえいかなる目を見ようと、いかなる人に邂逅おうと決してそれは自白けるな、一旦の憤怒悲哀にこの戒めを忘れたら、その時こそ社会から捨てられたものと思え。」こう父は教えたので…